原作者の心に直接届いた
ミュージカル化への思い
ーー | 今日は角野先生と岸本さんに、ご本や舞台についてお伺いします。まず岸本さん、『ズボン船長さんの話』の魅力と舞台化までの過程を教えてください。 |
岸本 | 『ズボン船長さんの話』は、親しみやすいファンタジー作品でありながら、一方では生と死という普遍的なテーマもあって、すごく深い作品ですね。そのテーマを少年の視点を通すことによって、大人から子どもまで楽しめる作品になっていて。まさに僕が一番伝えたいことがテーマに詰まっています。そして僕がコンテンツ制作とともに中心に据えているものが教育事業なんですが、こちらに対しての熱い思いを角野先生にも聞いていただきました。それを受け取っていただいて、今に至ります |
角野 | 岸本さんとは偶然にお会いしたんですよ。そのとき、“何かやりたい!!”という気持ちをすごく感じたんです |
岸本 | それだけでした(笑)。他には何もなくて。僕の伝えたいことが詰まった先生の『ズボン船長さんの話』をどうしても、世界に通用する舞台作品にしたくて。おこがましいですが、第一線でずっと走られている方の胸をお借りするつもりで、一か八かで飛び込んだところ、快く受けてくださいました |
角野 | 私は自分の作品が舞台化される、その過程を見せていただけるだけで幸せだなと思いましたね |
岸本 | 声を大にしてずっと言っていれば気持ちは必ず、届くんだと思いました! 普通だったら断りますよね、よくわからないこんな人間が出てきて… |
角野 | 最初は、お会いするだけと思ったんです。でも、お会いしたら何か面白そうだし、熱を感じたんです。今、熱を持って何かをしようという方があまりいないでしょう。だから、岸本さんの“やりたい!やります!”という感じがいいな〜と思ったんです。新しいものを自分の力で開拓するというような、そういう気持ちがたくさんおありですね |
岸本 | いやもう、そこだけは褒めていただいています。何せ立ち上げたばかりの若い団体ですから |
角野 | だけどそれは一番大事なことですもの。儲かるからやるというのは普通のことでしょう。やりたいからやるという、その気持ちです。私も若い時はそうでしたから。だから、そういう方たちを見ると、何かやってほしいなと思いますね |
岸本 | 憧れている人たちを追いかけているとすごく楽しくなりますね。先日も、先生の巌谷小波(いわやさざなみ)賞受賞パーティーに呼んでいただいたのですが、その時の先生のお顔が本当に少女のようで。“幸せだから楽しいの!”とおっしゃっていて |
角野 | “悪いけど幸せ”って言ったんですって(笑) |
岸本 | 悪いけど幸せ!(笑)。僕もそんな人生を過ごしたいなって思いますね。そんな方に一瞬でも、胸を貸していただけるのは、本当に何ものにも代え難い、貴重な経験です |
角野 | 身に余る光栄だわ、そんなこと言っていただくなんて
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岸本 | そういうふうに大人が楽しんでいると、子どもたちにも伝わると思うんです。目一杯、楽しんでいる姿を見せることができたら。最近、楽しんでいる大人が少ないとよく言われますし… |
角野 | 大変ですものね。過酷な時代ではあるけれど、だからこそ私たちがこういうものを作らないと |
岸本 | それぞれの立場とか、やるべきことを全うして、いいものを作りたいという思いはありますね |
舞台の子どもたちと
客席の子どもたちに伝えたいこと
ーー | 岸本さんは教育事業を中心に据えているということですが、そちらについてお聞かせください。 |
岸本 | 教育的にどうとか、これが言いたいということではなくて、単純にワクワクする場所を作りたいんです。今回、子どもたちがたくさん参加しますが、舞台活動も教育的にすごくいいことだと思っています。協調性、独創性、創造性など、社会に必要なものがすべて入っていますので、ここでいろんな厳しさとか、楽しさを体験してもらいたい。そして、舞台を観に来てくれた子どもたちには、一緒にワクワクする時間を過ごしてもらいたいですね |
角野 | 私も舞台を見せることも教育だと思います。心がワクワクする、生き生きとなれるものを子どもの頃にたっぷり経験してほしいですね。子どもの頃にいいものを観ないと大人が育たないでしょう。まず底辺の教育をしっかりしないと。だから、子どもたちが楽しいものを楽しいと、ちゃんと受け取れるものを作ってくださると嬉しいですね。この舞台を観て、音楽をやりたいと思う子もいるでしょうし、何か書きたいと思う子もいるでしょう。本を好きになる子もいると思います。自分も参加して観られるものだから、そんな広がりもあると思います |
岸本 | オーディションから入っていただきました |
角野 | オーディションの場に参加するのは初めての経験でしたけど、楽しいですね。みんな、生き生きとしていました。今のお子さんって、隣の子がやったらやるというところがあるでしょう。だけどオーディションには、自分からやりたいという自発的なお子さんばかり。いいな〜と思いましたね |
ーー | 岸本さんは、そんな子どもたちをまとめる立場ですが、彼らとはどのように向き合っていらっしゃるのでしょうか? |
岸本 | 僕は稽古でも、難しいことも言いますし、大人と同じようなダメ出しをします。でも、感受性の豊かな子って細かい内容まではわからなくても、こちらが伝えたいことは感覚で捉えるんです。子どもって子ども扱いされると子どもになるけど、大人扱いすると大人になる。理解力や考える内容は拙くても、感覚として責任感も持ちます。舞台はお客様が一番ですから、僕は演出家として、“お客様の目線に立ったときに君たちがやらなくちゃいけないことは何か”と、一人の役者としてオーダーしています |
角野 | だけど好きなことをすることほど、生き生きとすることはないですよ。子どもたちはみんな、生き生きとしています。このミュージカルに出演する子どもたちは、ご挨拶もちゃんとするし、ちゃんと顔を合わせます。今もお感じになりましたでしょう? 彼らは十分、“生きている”ことを実感しているように見えますね |
神戸から世界へ…大海原へ
漕ぎ出した船と、その未来
ーー | 続いて、舞台についてお伺いします。ミュージカルではどんなお話になるのでしょう? |
岸本 | 原作と異なるのは、ケン君が船長のお話の中に入り、直に体験することです。その経験を通じて精神的にも肉体的にも成長します。作品はオムニバス方式で進んでいきますが、ケン君の成長物語が軸になって、その中で生と死など、普遍的な深いテーマを船長がケン君に託していきます
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角野 | ケン君もお話の中の一人になりたいと思っていたから。読者もそうでしょう。物語の一人になったような気持ちになりますよね |
ーー | ミュージカル化にあたって先生からリクエストはありますか?
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角野 | そんなにないのですが…(笑)。やっている方が楽しんでいれば絶対に、いいものになると思うんです。これは“やらされている”じゃないでしょう。舞台にもその辺りが表れてくると思うんです。彼はもとより、脚本を書かれる方も、映像を作られる方も、音楽を作られる方もみんな、やりたいから集まってきた方なんですよ。だから気持ちがいいですね |
岸本 | みんなゼロから一緒にやってきた仲間なので、いいものを創りたいという方向へのみベクトルが向いていて、そしてとにかくポジティブで気のいい人達ばかり、一緒にやっていて本当に気持ちがいいです |
角野 | また、舞台化によって主人公がいろんな場所に出張していくでしょう? そうするとみんなが作品を知ってくれるわけじゃない。そしてこのミュージカルでは物語の中でケン君も成長する。そういうふうに私は、いろんなケン君や船長さんに会えるんです |
岸本 | そうですね。僕が先生にお力添えできることは、このミュージカルを通して原作を知ってもらう機会を増やすことです。ミュージカルも今後、成長し続けると思いますし、ずっとやり続けたいですね。この作品は未来永劫、残るべきだと思ってます |
角野 | 『ズボン船長さんの話』の基になっている私の旅は、神戸から始まっているんです。1959年に神戸から船に乗って、私はブラジルに行ったんです |
岸本 | 先生、“ミュージカルが神戸発じゃなかったら、私、ゴーを出してないわよ”って(笑)。冗談で(笑) |
角野 | 物語も神戸から始まり、岸本さんが目指すものの第一歩も神戸発信。意図したことではないですけれども、そういうふうに巡り合わせたんですよね |
岸本 | 舞台化のミッションとして、先生から“できるだけ低価格で”ということを頂きました。我々としても、一人でも多くの方に観ていただきたいですし、この金額だから観に来ることができて、子どもに何かを伝えることができたという、まずはそこからだと |
角野 | 日本はチケット代が高すぎます。料金は切実な問題ですよ。お子さんが3人いたら大変ですもの |
岸本 | そうですよね、角野先生からの大きなミッションの一つだと受け止めて、頑張ってまいりたいと思います |
角野 | 子どもたちには、小さい頃に観たものに対して、いい思い出を持っていただきたいですよね。そうすると、それが生きる力になりますしね |